
2023年末、こんなニュースが流れてきました。
ローム、東芝、三菱電機の3社が、次世代パワー半導体の製造・供給で提携する。
「へえ、また国策ね」って流した人、おるんちゃいますか。ワイもそうでした。
かつて世界を席巻した「日の丸半導体」が、1990年代以降にボロボロと負け続けてきた歴史を知ってたら、「どうせまた大きいこと言うて、うまいこといかへんのやろ」って冷めた目になりますよね。
でも、ちょっと調べてみたら、今回はなんか違う匂いがするんですよ。
そこで今回は、この提携を入り口に「日本の半導体って今どんな状況で、投資家目線やとどう見える?」を、できるだけわかりやすう解説してみます。難しい用語が出てきたら都度説明しますんで、半導体に詳しくない方でも大丈夫ですわ。
まず「パワー半導体」って何やねん
半導体、って聞いたらスマホやPCの「頭脳(CPU)」を思い浮かべる人が多いと思います。でも半導体には、もっとたくさんの種類があるんです。
今回の主役であるパワー半導体、一言でいうたら「電気の流れをコントロールする筋肉」です。
電気自動車(EV)のモーターを動かすとき、バッテリーの電気をそのままモーターに流すわけにはいきません。電圧や電流を状況に合わせて変換・制御する必要があります。その仕事を担ってるのがパワー半導体です。EVだけやなく、工場の機械、電車、太陽光発電、データセンターの電源など、「電気を使うあらゆる場所」に入ってます。
省エネが求められる時代に、パワー半導体の需要は今後も確実に伸びます。世界シェアトップは独インフィニオン、2位は米オンセミ。日本勢はこの2社を追いかける立場です。
3社が組んだ理由:「バラバラやったら勝たれへん」
ローム・東芝・三菱電機、それぞれ何が得意なんか。
- ローム:次世代素材「SiC(炭化ケイ素)」のウェハ(半導体の土台となる薄い板)を自社で作れる。世界的にも貴重な強みです。
- 東芝:電気自動車向けの部品や、比較的低い電圧の制御が得意。
- 三菱電機:鉄道や電力インフラなど、高い電圧が必要な用途での実績が圧倒的。
3社がバラバラに投資してても、世界トップには規模で勝たれへん。やから「素材(ローム)→ 部品・完成品(東芝・三菱)」という流れで役割を分担して、効率よう戦おうというのが今回の提携の骨子です。
ただし、過大評価は禁物。 これは「一部領域での補完関係」であって、すべてを自前で完結できる「完全統合」やありません。製造装置や一部の材料では、まだ海外依存が残ってます。「最強のサプライチェーン誕生!」という見出しは、ちょっと盛りすぎですわ。
なお、日本政府もこのプロジェクトに最大1,294億円の助成を決定してます(経産省、2023年12月8日発表)[1]。国が本気でバックアップしてるのは事実です。
日本の半導体、なんで一度「死にかけた」んや
少し歴史を振り返ります。
1980年代、日本の半導体メーカーは世界シェアの50%以上を持ってました。特にDRAM(パソコンのメモリ)では品質の高さで世界を圧倒。「産業のコメ」と呼ばれた時代です。
ところが1990年代以降、歯車が狂い始めます。
日米間の貿易摩擦でいろんな制約を受けたこと、そして韓国のサムスンや台湾のTSMCが「設計と製造を分ける」という新しいビジネスモデルで急速に台頭したこと。日本のメーカーは「なんでも自分でやる」という自前主義にこだわった結果、この変化の波に乗り遅れてしもたんです。
その後、日本勢はメモリやCPUといった「汎用品」の分野では韓国・台湾・米国に負けていきます。
では今の日本に何が残ったんか。それが「すり合わせ技術」が必要な領域です。パワー半導体、アナログ半導体、センサー、そして「半導体を作るための道具(製造装置)」と「素材(材料)」。精緻な技術の積み重ねが必要で、一朝一夕には真似できません。日本はここに特化することで生き残ってきました。
投資家目線やと、ほんまに「買い」なんか?
ここからは少し現実的な話をします。
「国が1兆円以上つぎ込んでるから安心」というのは、投資判断としては危ない考え方です。半導体は景気サイクルが激しくて、技術競争が非常に過酷な業界やからです。
投資で意識すべき軸は、「勝つか負けるか」やなくて「替えが効くかどうか」やと思います。
チョークポイント(急所)という考え方
日本がほんまに強いのは、実はパワー半導体やなくて、「半導体を作るための装置と材料」の領域です。
どんな国が、どんな会社が半導体工場を建てても、日本製の装置と材料がなければ作れない——そういう「急所(チョークポイント)」を日本は握ってます。
信越化学工業(4063)は、半導体の土台となるシリコンウェハで世界シェア1位[2]。競合はSUMCO(日本)、GlobalWafers(台湾)、SK Siltron(韓国)ですが、高い参入障壁を築いてます。
東京エレクトロン(8035)は、半導体製造装置でトップクラス。特にウェハに感光材を塗る「コータ・デベロッパ」という装置では世界シェアほぼ100%[3]。ASML(オランダ)やアプライド・マテリアルズ(米国)といった強豪が並ぶ業界で、特定プロセスでは圧倒的な存在感を誇ります。
これらの企業は、「世界が日本に頭を下げざるを得ない」存在です。TSMCが台湾に工場を作ろうが熊本に作ろうが、彼らの製品は必ず必要とされます。
TSMC熊本は何を意味するんか
米中対立の影響で、西側諸国は「信頼できる国で半導体を作ろう」という動き(フレンド・ショアリング)を進めてます。その流れで、世界最大の半導体受託製造会社である台湾のTSMCが熊本に工場を建てたのは、日本にとって大きなチャンスです。
日本政府はTSMC熊本への補助金として、第1工場に最大約4,760億円[4]、第2工場(2024年決定)に最大約7,320億円[5]を拠出。合計約1兆2,080億円という規模は、国の本気度を示してます。
気をつけたいリスクが2つあります
① Rapidus(ラピダス)は「ギャンブル」と見ておく
政府肝いりで設立されたRapidusは、最先端の2nmロジック半導体の量産を目指してます。成功すれば日本の「脳みそ(ロジック半導体)」復活になりますが、技術的難易度が極めて高く、TSMCでさえ苦戦する領域です。実績のない会社が挑むこのシナリオ、投資判断としては「ハイリスク・ハイリターンのギャンブル」と見ておくべきでしょう。
② パワー半導体は「有望やけど激戦」
ローム(6963)はSiCの一貫生産で世界的にも希少な存在ですが、巨額の設備投資負担と、競合のインフィニオン・オンセミも猛追してることを忘れたらあきません。株価の変動も大きい銘柄です。
三菱電機(6503)は、パワーモジュール(完成品)の技術と多角化した事業基盤で、比較的安定した投資対象といえます。今回の提携でロームからSiCウェハを安定調達できるようになれば、競争力はさらに増す可能性があります。
まとめ:「ナショナルストーリー」に乗る前に、いっぺん立ち止まって考えよ
日本の半導体の現実的な未来は、「かつての栄光を取り戻す」やなくて、「装置・材料・パワー半導体という得意領域で、世界になくてはならない存在になる」やと思います。
Rapidusや国策への期待で熱狂するより、「世界が日本に頭を下げざるを得ない場所」に冷静に資金を向ける。それが日本半導体との一番合理的な付き合い方ちゃいますかね。
もし投資を考えるなら、こんなイメージで:
- 安定重視なら:信越化学・東京エレクトロンなど、チョークポイント企業への投資
- 成長を狙うなら:SiCで存在感を増しつつあるローム(ただしボラティリティ覚悟で)
- バランス型なら:パワー半導体の確実な需要増を取り込む三菱電機
「国策やから大丈夫」やなくて、「稼ぐ力(キャッシュフロー)があるか」で判断する。この軸を持っておくと、半導体以外の投資でも役立つはずですわ。
ちなみに、ワイは現在、紹介したいずれの企業の株式も持ってません。確実な「割安感」が確認できたときにのみ個別株を買うというスタンスをとってます。今回の分析は、あくまでフラットな「監査」の結果であって、現時点での購入を推奨するもんやない、という点だけは付け加えておきたいと思います(笑)。
参考文献
[1] 経済産業省「ローム、東芝、三菱電機のパワー半導体製造・供給体制整備プロジェクトに対し、最大1294億円の助成を決定」(プレスリリース、2023年12月8日)
[2] SUMCO「半導体用シリコンウェーハ市場における各社シェア」(公式ウェブサイト、2024年6月時点)
[3] 東京エレクトロン「コータ・デベロッパで世界シェアほぼ100%」(公式ウェブサイト、2024年6月時点)
[4] 経済産業省「JASMの熊本第1工場に対し、最大約4760億円の助成を決定」(プレスリリース、2022年6月17日)
[5] 経済産業省「JASMの熊本第2工場に対し、最大約7320億円の助成を決定」(プレスリリース、2024年2月24日)